ファルコノイド・ファルコンリー・アカデミー( Sugisaki )

ドクターBJ傷病鳥医学相談室 相談記録選集


質問者:sollaさん
今回はフレットマーク(ストレスマーク)についてお聞きします。
うちのハヤブサも初列の1枚にフレットマークが入ってしまいましたが、このフレットマークが発生するまたフレットマークのメカニズムを教えて下さい。

フレットマークが入る要因としては極度なストレスなどがあるようですが、一度フレットマークが入ってしまうとその羽にどう言った事が起こるのでしょうか?
マークの部分が弱くなり折れやすくなるとか、その羽自体が他の羽にくらべ弱くなるなど、羽に対してどう言った影響があるのか教えて下さい。


回答者:BJ氏
まず、羽が完成するまでですが
皮膚にある 羽芽 と呼ばれる細胞が起源になります
そこから縦方向に羽軸が、横(斜め)方向に羽枝が一定のスピードで伸長します
リジンやメチオニンといった必須アミノ酸がその成分です

それぞれの種で特徴的な模様は
哺乳類と同じメラニン色素と鳥類はカロテノイドという2種類の色素があり
これらが羽根の内部に供給されその配列と密度で模様となります

これらの一連の過程が滞りなく行われることで 正常な羽 は作られます
ですから、この過程が滞ることにより フレットマークやストレスマーク、ハンガートレースといったものが発生します
これができるのは

1.なるべくストレスを感じさせない適切な環境・取り扱いができていない
2.健康状態の悪化
3.栄養不足または十分でも偏った栄養

が原因と考えられます

1と2に関しては、病気やストレスにより羽が作られていく過程が阻害され一定のスピードでなくなるためです
3は材料不足ということです
また、羽根の成分は蛋白質ですから、蛋白質の代謝に重要な肝臓が正常に機能していないといけません
過度の肥満では肝臓に脂肪が蓄積され(いわゆるフォアグラ状態です)肝臓の機能は低下します
いくら栄養状態を良くするためとはいえ過食は禁物です

ですので

健康的に
なるべくストレスを感じさせないよう
偏りのない食餌

を心掛ければ異常な羽とは無縁となると思われます

このマークができてしまった羽ですが
問題があるので抜くなど、どうにかしなければいけないといった文献は
僕は見たことがありません

正常な羽に比べパフォーマンスは落ちるかもしれませんが
ちょうどその部分で割れたりすることはあっても、それほど気にする必要は無いと思います
羽がボロボロでも立派に生きてる鳥はいっぱいいますよね


質問者:sollaさん
うちのハヤブサの左の初列風切羽にちょっと気になることがあります。
初列風切羽の外側から2番目の羽が1番目側に寄っている為、羽を広げた時に2番目と3番目にかなり隙間が出来てしまいます。

画像がアップ出来ないので文章だけではわかり辛いとは思いますが、要は羽を広げた時にあるべき位置に羽がないので「歯抜け」の様に見えるのです。
2番目の羽自体には異常はない様です。
このハヤブサは今年で3年目で、現在2回目の換羽中です。
ただ、若からの飼育ではなく、私の前にオーナーさんがいた鳥で先月から私が飼育する事になりました。なのでうちに来る前(昨シーズンなど)の事はよくわかりません。

こんな感じですが、このまま換羽すれば通常の羽の位置に戻るのでしょうか?
それとも何かしら処置をしなければ羽の位置は変わらないのでしょうか?


●回答者:BJ氏
換羽に関してはそれほど知識・経験が多くないのですが
その中でお答えさせていただきます

もし、その羽が幼鳥もしくは1年目からその状態だった場合
羽胞付近に何か傷害や問題があったなどの理由により
外側に変位した可能性がありその場合は今回の換羽でも偏ってしまう可能性があります
ただ、羽胞が正常に戻る場合もあると思われます

その羽が換羽が近づいたことにより羽胞が緩んだため
外側に偏った場合
換羽さえ正常に行われれば通常の位置に生えてくると思われます

換羽はかなりの体力(栄養)を消費します
環境が変わってすぐであればなるべく落ち着ける環境を作ってあげることが重要になりますし
なるべく肉色は高くしたほうがよろしいかと思います



質問者:ミッフィーさん
ハヤブサの嘴にひびが入る、一部が欠けるというのは
なにが原因でおこる事なのでしょうか?
治療、または予防方法がありましたらご教授願います。


●回答者:BJ氏
嘴が欠けるのにはいくつかの原因があります

硬いものをくわえたり、物理的に大きな力が加わった
嘴の脆弱化
嘴の過長

脆弱化・過長の原因としては
栄養不良(ビタミンA,B,D、パントテン酸、カルシウムなど)
感染症(細菌、ウイルス、真菌、寄生虫)
肝疾患
使用頻度の低下

などです。これら単独もしくは複合して起こります
特にこの時期栄養要求量や代謝が大きく変化しますから注意が必要です
単一の食餌はもってのほかですし量にも注意が必要です
やはりビタミン剤の併用をお勧めします

栄養不良や肝疾患の場合は嘴の質が低下し伸びるのが早くなるのと同じことが
爪にも現れます


ただ、多くの飼育下の猛禽類は使用頻度の低下(磨耗不足)がその主な原因ですから
定期的なトリミング必要
なのは周知の事実ですね
ひびが入るのも過長により力の加わり方が不均一になるためと考えられます



質問者:シュウさん
当該個体につきましては一昨年はクリアランスフライトを実施し昨シーズンは繁殖にとケージ内にて飼育しました。昨年のはっきりとした時期は不明ですが画像のような「かさぶた」が認められしばらくして落ちる?また、違う場所に発症することを3回ほど確認しております。今回(年明けの冬季)も頭部に確認され、しばらくして無くなり?(とれる?)また、違う場所に発症する繰り返しです。


鳥の種類と年齢
  ペリグリン♀  5歳
その場所の外傷歴
  なし?
フードとの関連性
  フードは被せてません。
トレーニングでのハトの使用および野鳥との接触
  昨年2度与えました。(他個体にも給餌しました。)

こぶ(mass)の硬さ、内容物の感じは ( ex. 水様・チーズ様など )
  かさぶた様で内容物などは感じられません。





●回答者:BJ氏

1)いくつか可能性が上げられますが
シュウさんが懸念しています鶏痘(鳥痘:ポックスウイルス感染症)の可能性が高いと思われます
まずはある程度原因がはっきりするまでは当該個体の隔離が必要です

確かにポックスウイルスは蚊を媒介して感染するアルボウイルスですが
全個体に蚊が接触していないかもしれませんし
お手元にこられる以前に感染していたのかもしれません
また、このウイルスは傷口より、剥がれ落ちた痂皮などを介して飛沫感染も起こします

今回の発症は冬期で寒さなどから免疫機能が低下し再発(再燃)したとも考えられます

2)これは可能性のお話です、確定ということではありません
前回にも記載させていただきましたが
冬期の発症は再発(再燃)の可能性もあります
ただ、可能性はすこぶる高いです

このウイルスは乾燥に高度な耐性を示すため
冬期における空気の乾燥により遠方より運ばれた可能性もあります

また、蚊だけではなくサシバエでもウイルスの伝播が確認されています

このウイルスに対する治療法はなく
(試してみたい治療法はありますが)
隔離と消毒、感染拡大の防止、二次感染の予防・治療が今後の方針となります

消毒はハイター等の家庭で使用される消毒剤でかまいませんが
感染鳥の周囲、接触した人の衣類、餌掛けなど全てのものを行ってください

予防には海外ではワクチンが使用されていますが
生物製剤のため我が国への輸入、もちろん使用は不可能です

イボおよびその周囲に二次感染が起きた場合は
その治療が重要になります
イボのみの場合は正常個体と全く変わらない生活を送ることが可能です

他種で見られる通称“Wet type”とよばれるジフテリア様の症状は
ハヤブサには起こらないとされています
こちらは症状が進行した場合は命に関わりますが
ひとまず安心していただいてよろしいかと思います



質問者:Sugisaki
麻痺とビタミンBの関係について教えてください。

回答者:BJさん
麻痺とビタミンBとの関係ですが
麻痺の原因が例えば、神経炎だったりと神経の損傷の場合は投与されることがあります
それはビタミンBには神経を保護したり神経を正常に活動させる作用があるためです

ビタミンBとは

一般には“ビタミンB群(コンプレックス)”と呼ばれいくつかの物質の総称です

ビタミンB1:チアミン
ビタミンB2:リボフラビン
ビタミンB3:ナイアシン
ビタミンB6:ピリドキシン
ビタミンB12:シアノコバラミン
コリン
PABA
パントテン酸
などなどです
これらの単独または相互作用により効果が現れます

また、ビタミンB群は水溶性で脂溶性のビタミンに比べ摂取しすぎても問題になることはほとんどありませんといのは、人や犬猫の話で
フクロウ(エゾフクロウStrix uralensis uralensis)と シマフクロウ(Ketupa blakistoni blakistoni)において、ある医療用のビタミンB製剤で致死性の中毒を起こしたという報告があります
使用や処方を受ける際には注意が必要です



●質問者:毛毬さん
羽胞嚢(胞)腫について

●回答者:BJ
羽胞嚢(胞)腫とは
ある種の鳥類でウイルス性が疑われる事がありますが、多発性でなければ羽包細胞に対する直接的な障害により単独で発生したものと考えられます。
その場合、外傷性、細菌性、真菌性、腫瘍性などが疑われます。
また遺伝的な問題の関与も疑われています。

「効果的な治療法」
切開し内包する羽材料を取り除きます。
前述した処置後に正常な羽が生育する可能性は低いです。
このため羽包嚢腫は再発し、度々切開する必要に迫られることがあります。
再発防止のためには羽包ごと切除するしかありません。


私自身、切除後は皮膚を軟化する作用のあるものを使用すれば
再発の確立を下げられるのではないか
と考えています

麻酔についてですが
よほどその個体の状態が悪くなければ(例えば開口呼吸しているような状況など)
それほど麻酔がシビアと感じたことはありません
確かに犬猫に比べれば麻酔の難易度、リスクは上がりますが
健康な個体であれば麻酔のリスクは高くはありません

勘違いされては困りますので補足させていただきますが
鳥の麻酔はシビアでリスクが高いという概念が一般の方々に浸透してしまうと
手術すればよくなる場合も、オーナー様がそういった理由で麻酔を拒否されれば
こちらとしてはそれ以上のことは何もできなくなってしまうからです


●質問者:Sugisaki
翼、足などの麻痺について、わかること(原因、治療法)を伺いたいのですが。
いかがでしょう。


●回答:BJ

麻痺という状態は病気の中でもかなり重症の類に入ります
例えば人で脳卒中で入院、その後のリハビリともなると
病気からの回復、リハビリでの以前の状態へと復帰するためには相当の時間と労力を要します
また、診断・治療も一筋縄ではいきません、疑われる原因は多岐にわたります
ましてや鳥類、しかも猛禽類ともなるとさらに特殊性が増します

まず、“麻痺”とは
「神経の損傷、または疾病による筋肉の随意運動力の喪失や感覚、分泌または精神作用のような機能の喪失」
と定義されます。

何らかの原因により思いどおりのことができない状態 となります
思いどおりのことをするには

@知覚を司る感覚神経
A筋肉等の運動器
B運動器を動かす運動神経
Cそしてこれらを統括している脳・脊髄の中枢神経


の全てが正常でないといけない。ということです

もし、麻痺が疑われる場合
そのどこに病変があるのか、どこが疑わしいのかを考えます

@中枢である脳なのか、
A脊髄(頚椎〜胸椎、胸椎〜腰椎、腰椎〜仙・尾椎)なのか?
Bそれらから分岐する感覚および運動神経なのか?
C運動器である筋肉、靭帯、骨・関節なのか? 
です

原因はぶつけたりなど、これらそのものが原因の場合
周囲の腫れなどによる圧迫 など

また、“麻痺”の程度が

@完全なのか?
A不完全・部分的なのか?
B左右対称なのか?
C肢だけなのか翼もなのか?
 などなどです

人と違って会話ができない分、自らが意識して行う動作(随意運動)の判断がしづらいかもしれません
このような場合、“反射”で大まかに検査し、ある程度場所を特定します
例えば

抱きかかえて身体を前後左右に傾けても頭は水平に保ちます
目に勢いよく何かを近づけると瞬きをするなどなどなどです


ただし、猛禽類は特にストレスに弱い生き物です
病院で検査をされても、極度の緊張により
“反射”の有無が判断しづらいことが予想されます。おそらくそうなります。
猛禽類の扱いに慣れていない獣医ならなおさらです
彼らより、訓練を行っている方々のほうが明らかに扱いは慣れていらっしゃいます
ですので、“麻痺”が疑われた場合
一度、ご自宅で“反射”の検査を行ってみるのがよろしいかと思われます



●質問者:コンさん

Q:発情防止としてはやはり小屋に隔離するのが
確実ですか?でもコンパニオンバードを隔離してしまうと、「飼っている意味が無い」と思う人もいるでしょうし、置餌にする、とか、ルアーを狩らせるとかでしょうか?

A:
“コンパニオンバード”という言葉ですがこれを猛禽類に当てはめてよいものかいささか苦慮します
高度な群れや社会性を持つ、例えば犬などでは“コンパニオン”という言葉は当てはまりますが
日常を単独で生活する種類の場合
他個体(この場合飼育者になりますが)と生活するのは繁殖期のみです
この時期、心も身体も見えないだけで非繁殖期と比べ劇的に変化しています
ですから、過剰な発情は結果としてお互いに不幸を招く結果となります

ただ、ペットとしての猛禽類の捉え方は各個人それぞれおありでしょうから
積極的な発言はできませんが

コンパニオンバードの健康 または 飼育者の意

のどちらを優先するのかといった問題になってきます
この時期の♀の行動は、飼育者にとっての“喜び”を感じさせることが多いと思われますが逆にそれはその個体に負担をかけていることを忘れてはいけません
その個体の種類・性格に合わせて

観察飼育
コンパニオンバード
トレーニングバード

などの飼育形態を判断・選択するテクニックも必要になってくるのではないかと思います
ただ、猛禽類に関しては

付かず離れず

が一番良いのではないかというのが率直な感想です
αを頂点とした社会性をもつハリスホークではまた違った感じになるのはないでしょうか

またまた話が長くなってしまいましたね、すいません

小屋に隔離は確実とは言いがたいと思います
それは飼育環境によって違いはあることと
飼育者の接近や栄養状態、明期時間など
他の条件がそろえば発情してしまう可能性があるからです

置餌にする
 接触を最低限にすることですからいいと思います
ルアーを狩らせる
 詰めていることはいいと思います


肝心なのは適度な“ストレス”を与えてあげることです
“ストレス”というとマイナスのイメージを持たれるかもしれませんが
そうではありません
生活に“安定”ではなく“変化”をつけてあげることが重要だということです


偽卵はオウム・インコを取り扱っているショップにあると思います
ただ、ある程度大きさを揃える必要があります
装飾用の卵みたいなものでもよいかと思います
もしくは、産んだ卵をそのままでもかまいません
すぐに腐敗することはないですし、割れない限り悪影響は少ないと思います

抱卵斑は抱卵のための準備です
なので抱かなくてもできます
ただ、あまり目立たないのでわかりにくいかもしれません
その昔(10年くらい前でしょうか?)バーダーという雑誌に
チョウゲンボウの抱卵斑が写っている写真を見たことがあったような気がします


●質問者:コンさん
Q:
飼育下における、ペアでは無い猛禽の産卵についてなのですが、卵をこっそり取り上げるにしても、取り上げた後、次々産んでしまうと、健康上問題があるだろうと思うのですが、対策として、偽卵を抱かせる。というのが、ベストなのでしょうか?その場合、偽卵の材質はどのような物を?また偽卵を取り上げる時期は何時ごろなのでしょうか?その他、有効な対策あれば教えて下さい。

A:猛禽類をはじめたとした鳥類が産卵に至るまでには必ず
“発情(期)”
という過程をふまなければなりません
それには“つがい”とゆう相方も必要です
単刀直入にゆうと、その個体にとってコンさんが恋愛対象になってしまっている可能性があります
惚れられちゃったんですね (^。^@)

♀は♂からの給餌によりつがい相手と認めます
ですので、日頃の給餌を求愛給餌ととられたのでしょう
また、栄養状態も良くないと性腺も発達しませんからあまり詰めていなかったんじゃないでしょうか?

給餌以外の繁殖刺激は

・光周期
・温度
・鳴き声
・栄養状態
・巣や巣材の存在
・ストレスの欠如 
などです
よっぽど今の環境が住み心地いいんでしょう

対策なのですが、これらの条件がそろうと発情するということなので
逆転の発想です

長い明期
低い気温
給餌以外の接触頻度をあげる
ある程度詰めておく
ストレスの存在
などなどです

プリント個体だと思われますが
こういうヤツはやさしくするとつけあがりますので
時にやさしく、時に冷たくあしらってあげて下さい

また、偽卵も良い方法だと思われます
コンさんのおっしゃるとおり産み続ければ健康を害します(長くなるのでこちらはいずれ)

材質は大きさ、色など似ていればなんでもかまわないと思います
インコのものはプラッチックですから

産卵を経た発情期を過ぎると“抱卵期”に突入します
この時期に入ればまず産卵することはありません
じゃあどこで見分けるかというと
この時期‘抱卵斑’とよばれる腹部に‘はげ’ができます


あとは薬(ホルモン剤)を使って無理やり発情を抑える方法もあります

卵がちゃんと産めるならまだしも
詰まったり、産めなかったりすることもあり
♀個体の体調を崩す大きな原因の一つがこれ、繁殖関連疾患です

一番の対策は

発情相手にならないこと 発情させないことです